SCS評価制度対応で陥りがちな失敗5パターンと回避策|ハチマルヤ合同会社(808)
「対策は進めているつもりだったのに、いざ整理してみたら手戻りだらけだった」
SCS評価制度への対応を進める中で、こうした状況に陥る企業は少なくありません。厄介なのは、進めている最中には失敗だと気づきにくいことです。作業自体は前に進んでいるように見えるため、問題が表面化するのは申請準備の段階になってから、というケースが目立ちます。
この記事では、ハチマルヤ合同会社(808)のコンサルタントが、実際によく見られる5つの失敗パターンと、それぞれの回避策を整理します。いずれも、着手前に知っておけば防げるものばかりです。
SCS評価制度そのものの全体像は、以下の記事で解説しています。
→ SCS評価制度とは?2027年から始まる新制度の全体像と対象企業

失敗パターン①:ツール導入から始めてしまう
何が起きるか
「セキュリティ対策が必要」と聞いて、まずEDRやログ管理ツールの検討から入るケースです。ベンダーからの提案を受け、比較検討し、稟議を通し、導入する——ここまでで数ヶ月が経過します。
そして導入後にギャップ分析を実施すると、次のような事実が判明します。
- 導入したツールでカバーできる要求事項は、26件のうちごく一部だった
- 予算をかけずに対応できる項目が、まだ手つかずで大量に残っている
- 一方で、ツールでは解決しない「ルールの文書化」が最大の未対応領域だった
なぜ起きるのか
「セキュリティ強化といえばツール導入」という発想が根強いためです。加えて、ツール導入は目に見える成果として社内に示しやすく、担当者にとって着手のハードルが低いという事情もあります。
しかしSCS評価制度の★3の要求事項26件を見ると、その多くはルールの策定・手続の明文化・運用の整備です。[※1] ID発行・削除の手続を定める、パスワードの管理ルールを定めて周知する、インシデント対応の手順と体制を定める——こうした項目にツールは直接関係しません。
回避策
順序を守ることに尽きます。ギャップ分析で現在地を把握し、未対応項目を洗い出し、そのうち「ツールが必要な項目」を特定してから導入を検討する。この順序であれば、必要なツールだけを、必要な理由とともに導入できます。
ギャップ分析は公式の要求事項・評価基準を使えば自社で実施でき、予算も不要です。進め方は以下の記事で解説しています。
→SCS評価制度のギャップ分析の進め方|現状把握から対応計画まで
失敗パターン②:情シス単独で完結させようとする
何が起きるか
SCS対応が情報システム部門のタスクとして割り振られ、担当者が一人で26件すべてを見ようとするケースです。技術的な項目は順調に進みますが、ある段階で完全に止まります。
止まるのは決まって、次のような項目です。
- 取引先との関係の把握:営業・調達部門が持っている情報が必要
- 機密情報の取扱いを共有先と明確にする:契約内容の確認が必要で、法務が関わる
- インシデント発生時の他社との役割・責任の明確化:取引先との合意形成そのものが必要
- 守秘義務のルール:人事・法務のマター
これらは★3の要求事項に含まれており、[※1] 情シスの権限だけでは前に進みません。
なぜ起きるのか
「セキュリティ=情シスの仕事」という社内認識が原因です。加えて、SCS評価制度が「セキュリティ対策評価制度」という名称であるため、内容を確認する前に情シスへ振られてしまう構造もあります。
回避策
着手時点で、部門横断の体制を確保しておくことです。ここで有効なのは、要求事項の一覧を根拠として示すことです。「取引先管理の要求事項があり、これは営業・調達の情報がないと判定すらできません」という説明は、体制構築の必要性を客観的に裏づけます。
経営層への説明の組み立て方は、以下の記事で解説しています。
→ SCS対応の予算が通らないときの考え方|経営層への説明の組み立て方
失敗パターン③:「やっている」と「示せる」を区別していない
何が起きるか
対策としては実施しているのに、それを証明する記録が残っていないケースです。申請準備の段階で「これの証跡は?」と問われて初めて発覚します。
典型的な例を挙げます。
| 実施している内容 | 不足しがちな証跡 |
|---|---|
| バックアップを取得している | 復元テストを実施した記録 |
| 社員へのセキュリティ教育を行った | 実施日・参加者・内容の記録 |
| IDの発行・削除を適切に運用している | 手続を定めた文書、申請・承認の記録 |
| パスワードのルールを周知している | ルールの文書、周知した事実の記録 |
いずれも「やっていない」わけではありません。やっているのに、評価上は「一部対応」にしかならないという状態です。
なぜ起きるのか
日常業務として定着している運用ほど、記録を残す習慣がないためです。「毎日やっていることをわざわざ記録する」発想が生まれにくいという、ごく自然な理由です。
回避策
ギャップ分析の段階から「証跡の有無」を独立した確認項目にすることです。判定を「対応済み/未対応」の2択にせず、「運用はあるが証跡がない」状態を可視化できる形にしておきます。
そのうえで、証跡が不足している項目については、対策そのものをやり直す必要はありません。記録の仕組みを追加するだけで済みます。この違いを早期に把握できていれば、対応工数の見積もり精度も上がります。
失敗パターン④:全項目に同時並行で着手する

何が起きるか
26件の一覧を前に、「全部やらなければ」と考えて一斉に着手するケースです。各項目が少しずつ進みますが、どれも完了しません。数ヶ月経っても「対応済み」に変わった項目がほとんどない、という状態に陥ります。
さらに、相手のある項目(取引先との調整)が後回しになりがちで、終盤で待ち時間が発生してスケジュールが崩れます。
なぜ起きるのか
ベースライン型の制度であることが、逆に作用しています。「全項目への対応が必要」という前提が、「全項目に同時に取り組む」という進め方に転化してしまうためです。
しかし、全項目への対応が必要であることと、全項目に同時着手することは別の話です。
回避策
必要な作業の性質で分類し、着手順を決めることです。
- すぐ完了できる項目(ルール策定・設定変更):先に片付けて、確実に「対応済み」を増やす
- 時間はかかるが自社で完結する項目(技術的整備):計画的に進める
- 相手のある項目(取引先との調整):着手だけは最優先。こちらの都合で期間を短縮できないため
特に3つ目が重要です。取引先管理に関する項目は、判定した時点ですぐ相手方への連絡を開始しておかないと、終盤で確実に詰まります。
失敗パターン⑤:取得をゴールにしてしまう
何が起きるか
申請・登録を最終目標に設定し、そこに向けて突貫で整備を進めるケースです。一時的に体裁は整いますが、その後の運用が続きません。
具体的には、次のような状態になります。
- 申請のために作成したルール文書が、現場の実態と乖離したまま放置される
- 教育・訓練が申請前の1回だけで、その後実施されていない
- 担当者の異動後、誰も内容を把握していない
なぜ起きるのか
期限が明確な取り組みでは、期限到達がゴールに見えてしまうためです。しかしSCS評価制度は、対策が継続的に運用されていることを前提とした制度設計になっています。
回避策
運用が回る形で整備することです。具体的には、次の点を意識します。
現場の実態に合わせてルールを作る:理想的なルールを作ると、現場が守れず形骸化します。今の運用を文書化し、足りない部分だけを追加するほうが定着します。
担当者が変わっても回る形にする:手順を文書化し、記録の保管場所を明確にしておきます。属人化していると、担当者の異動時にゼロに戻ります。
定期的な見直しのタイミングを決めておく:年1回など、内容を点検する時期をあらかじめ決めておくと、実態との乖離を防げます。
なお、★4を目指す場合には、セキュリティ対策推進計画の策定と経営層への定期報告が要求事項に含まれます。[※1] 継続的な運用の仕組みは、上位レベルを視野に入れる企業にとっては必須の準備でもあります。
★3と★4の違いは以下の記事で整理しています。
→ SCS第3階層・第4階層とは?★3・★4との関係を正しく整理
失敗に気づくためのチェックポイント
自社の進め方が5つのパターンに当てはまっていないか、次の質問で確認できます。いずれも「いいえ」なら、進め方の設計としては問題ありません。
□ ギャップ分析より先に、ツールの検討や導入を始めていませんか?
「まず何か対策を」という動きが先行している場合、パターン①に該当する可能性があります。
□ 対応状況を把握しているのが、情報システム部門だけになっていませんか?
取引先管理や守秘義務に関する項目について、営業・調達・法務に確認できていない場合、パターン②の入口にいます。
□ 「対応済み」と判断した項目について、その根拠となる記録の所在を答えられますか?
「実施している」ことは確かでも、記録の場所がすぐに出てこない項目があれば、パターン③が発生しています。
□ 着手から1ヶ月以上経過して、「完了」に変わった項目がありますか?
すべてが「進行中」のまま止まっている場合、パターン④の状態です。
□ 取引先との調整が必要な項目について、すでに相手方へ連絡していますか?
未着手であれば、終盤で待ち時間が発生します。判定した時点で連絡を始めてください。
□ 申請後も同じ運用を続けられる形になっていますか?
「申請のために作った」という認識の文書がある場合、パターン⑤のリスクがあります。
5つの失敗に共通すること
改めて並べると、いずれも「順序」と「範囲」の問題であることが分かります。
| パターン | 本質 |
|---|---|
| ①ツール導入から始める | 現状把握より先に対策を選んでしまう(順序) |
| ②情シス単独で進める | 必要な関係者を巻き込めていない(範囲) |
| ③証跡を残していない | 対応の完了条件を誤認している(範囲) |
| ④全項目に同時着手 | 優先順位をつけずに進める(順序) |
| ⑤取得をゴールにする | 完了時点の設定を誤っている(順序) |
裏を返せば、着手前に「どの順序で・どこまでやるか」を決めておけば、5つとも防げます。そしてその判断材料になるのが、ギャップ分析の結果です。
まとめ
- ①ツール導入から始めない:ギャップ分析で必要性を特定してから検討する
- ②情シス単独で進めない:取引先管理・守秘義務など他部門マターが要求事項に含まれる
- ③「やっている」と「示せる」は別:証跡の有無を独立した確認項目にする
- ④全項目に同時着手しない:相手のある項目だけは着手を最優先にする
- ⑤取得をゴールにしない:現場の実態に合わせ、担当者が変わっても回る形で整備する
- 5つとも「順序」と「範囲」の問題。着手前の設計で防げる
よくある質問(FAQ)
Q1:すでにツールを導入してしまった場合、無駄になりますか?
無駄にはなりません。導入したツールが要求事項のどれに対応するかを、ギャップ分析の中で位置づけ直せば活用できます。問題は「ツールでは対応できない項目が手つかずで残っている」ことなので、その把握を優先してください。なお、要求事項26件の多くはルールの策定・手続の明文化であり、ツール以外の対応が中心になります。[※1]
Q2:証跡はどのくらいの粒度で残せばよいですか?
「いつ・誰が・何を実施したか」が確認できる粒度が基本です。専用のシステムは必須ではなく、実施記録を残した文書やスクリーンショット、メールの記録などでも成立するケースがあります。重要なのは形式より、実施した事実を第三者が確認できることです。詳細な要件は公式の評価基準を確認してください。[※1]
Q3:取引先との調整は、具体的にどう切り出せばよいですか?
「当社がSCS評価制度への対応を進めており、インシデント発生時の連絡体制について確認させていただきたい」といった形で、自社の取り組みを起点に伝えるのが自然です。相手にも同種の対応が求められる可能性があるため、協力を得やすいケースもあります。すべての取引先に一斉連絡するのではなく、機密情報や重要システムに関わる先から順に進めてください。
Q4:担当者が1名しかいない場合、どこから手をつけるべきですか?
まずギャップ分析で全体像を把握し、次に「すぐ完了できる項目」を片付けて対応済みの件数を増やすことをおすすめします。進捗が数字で見えると、追加の体制や予算の相談がしやすくなります。並行して、取引先との調整が必要な項目の着手だけは早めに始めてください。
ハチマルヤ合同会社(808)では、SCS評価制度への対応を専門チームがサポートしています。ギャップ分析から対応計画の策定、証跡整備・申請準備まで、「進め方が合っているか不安」という段階からご相談を受け付けています。まずはお気軽に無料相談をご利用ください。
参考資料・出典
※1 IPA(情報処理推進機構)「★3・★4 要求事項・評価基準」(2026年4月21日公開)
https://www.ipa.go.jp/security/scs/requirements-criteria.html
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