日米セキュリティ投資の9.3倍格差——データが語る、企業が備えるべき現実|ハチマルヤ合同会社(808)
日本の中堅・中小企業のセキュリティ投資はアメリカの9分の1。この格差がサイバー被害の深刻化と復旧困難につながっています。日米のセキュリティ対応の構造的違いと、日本企業が今取るべき対策をデータと共に解説します。
アスクルやアサヒグループのランサムウェア被害が記憶に新しいなか、ひとつの疑問が浮かびます。海外、とりわけアメリカの企業は同様の攻撃を受けたとき、どのように対応しているのでしょうか。
日米の対応を比べると、セキュリティに対する「考え方」と「備え方」に大きな構造的違いがあることがわかります。その違いを理解することが、日本企業がとるべき対策の根拠を把握するうえで重要です。
この記事では、データをもとに日米のサイバーセキュリティ対応の実態を比較し、日本企業が直面している現実とそこから導き出される対策を、ハチマルヤ合同会社(808)が解説します。
衝撃の「9.3倍」格差——日米のセキュリティ投資額の現実
まず、以下のデータをご覧ください。
中堅・中小企業の「従業員1人あたりのセキュリティ投資額」(年間)

出典:ひとり情シス協会「日米デジタルエンゲル係数比較調査」(2023年)[※1]
日本企業がセキュリティに費やす金額は、アメリカの企業と比べてわずか9分の1程度です。この「投資額の差」は、攻撃への「備え」の差となり、最終的に「復旧力の差」として表れます。
投資が少ないと、なぜ復旧できないのか
理由1:予防への投資が足りていない
平時からの予防対策に投資が向かなければ、攻撃者の侵入を防ぐ手立てが少なくなります。
IPA(情報処理推進機構)の調査によると、日本の小規模事業者の約70%がセキュリティ投資を「ゼロ(全く行っていない)」と回答しています。中小企業(101名以上)でも17.3%が「投資ゼロ」の状態です。[※2]
VPN機器の更新、多要素認証(MFA)の導入、EDR(侵入検知ソフト)の導入——こうした予防対策はすべて一定の投資を必要とします。投資がなければ、攻撃者の侵入を防ぐ「鍵」が存在しない状態になります。
理由2:アメリカには「攻撃後の保険」がある
もう一つの重要な違いは、有事における保険の仕組みです。
アメリカでは、復旧費用だけでなく「ランサムウェアの身代金支払い」そのものをカバーするサイバー保険が存在し、多くの企業が加入しています。「金銭で解決できるなら保険で払う」という合理的な判断が、ある程度社会的に許容されています。
一方、日本では反社会的勢力への利益供与やマネーロンダリングに関わる法的・倫理的懸念から、身代金支払いを補償する保険商品の提供は極めて困難な状況です。
つまり、日米の構造的な違いを整理すると次のようになります。

この構造を踏まえると、日本企業はアメリカ以上に「そもそも攻撃を受けないための予防投資」に力を入れなければなりません。しかし現実の投資額はその逆。これが被害を深刻化させる根本要因のひとつです。
「日本は狙われにくい」は過去の話
「アメリカに比べれば日本への攻撃は少ない」という見方もあります。これには、身代金が支払われにくい市場という側面が攻撃抑止に働いていた可能性も否定できません。
しかし、この状況は急速に変化しています。
RaaS(Ransomware-as-a-Service)の普及により、攻撃の参入コストが大幅に下がりました。また、AIによる日本語文章生成の精度向上により、かつては日本語の壁が機能していた標的型メールも、高品質な日本語で届くようになっています。
アスクル・アサヒグループの事例が示すように、攻撃件数は確実に増加しています。「儲けにくい市場」であっても、「侵入しやすい企業」には攻撃が集中します。
日本企業が置かれている現実
整理すると、日本企業は次のような厳しい構造のなかに置かれています。
- 攻撃を受ける確率はアメリカより低いかもしれないが、増加トレンドは明確
- 攻撃を受けた場合、損害はすべて自社が被らなければならない(保険のセーフティネットが機能しにくい)
- にもかかわらず、予防投資はアメリカの9分の1にとどまっている
この現実を直視すれば、セキュリティ対策は「よくわからないコスト」ではなく、「経営リスクに対する保険・投資」として位置づけるべきであることが明確になります。
今から始められること
日米のギャップを埋めるために、すぐに取り組める対策があります。
まず費用対効果が高い対策から着手する
- 多要素認証(MFA)の全面導入:クラウドサービスへの不正アクセスリスクを劇的に低減する。追加費用が不要なケースも多い。
- VPN機器・ファームウェアの更新確認:侵入の主要経路を塞ぐ。
- オフラインバックアップの整備:身代金を払わずに復旧できる「最後の砦」となる。
セキュリティ投資を「事業継続の保険」として経営判断に組み込む
日本ではサイバー保険が身代金をカバーしない以上、「攻撃されないための投資」を優先する必要があります。セキュリティコストを「節約できる費用」ではなく「事業継続に必要な固定費」として経営計画に組み込むことが求められます。
まとめ
- 日本の中堅・中小企業のセキュリティ投資は、アメリカの約9分の1にとどまっている。[※1]
- 日本企業の小規模事業者の約70%がセキュリティ投資ゼロという実態がある。[※2]
- アメリカにはサイバー保険(身代金補償含む)の仕組みがあるが、日本にはない。自社への攻撃はすべて自力・自腹で対処しなければならない。
- RaaSの普及・AI技術の進化により、日本を狙う攻撃コストは下がり続けている。
- だからこそ、日本企業は予防投資を「コスト」ではなく「経営リスクへの投資」として優先すべきである。
ハチマルヤ合同会社(808)では、企業規模・予算に応じたセキュリティ対策のロードマップ策定から実装支援まで、専門チームがサポートしています。「何から始めればいいかわからない」という段階からご相談を受け付けています。まずはお気軽にをご相談ください。
参考資料・出典
※1 ひとり情シス協会「日米デジタルエンゲル係数比較調査」(2023年)
※2 IPA(情報処理推進機構)「中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査(2024年度)概要報告書」
https://www.ipa.go.jp/security/reports/sme/nl10bi000000fbx3-att/sme-gaiyou-report2024r1.pdf
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